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last updated 1997/09/05

第113話(全130話)

最後の一匹(1/5)




3 最後の一匹 

 山を目指す、というピートの選択はどうやら間違いではなかったらしい。スレイヤーたちは
おとなしくピートに従ってくる。ドラゴンは高い山に住む。童話で読んだそんな一説を憶えて
いたことにピートは助けられたようだ。テオに紛れ込んでしまってから、読み憶えた童話たち
に助けられたのは、これで何回目だろう? ピートは童話に守られているような気がした。そ
れはとりもなおさず、母親に守られている、ということのような気がした。
「母さん・・」
 低く呟いて、ピートは山道を登りはじめる。
 マスターの後ろを歩いているワーターの背の上で、マリカはその呟きを聞いていた。
 何故だかワーターの手綱を握って横を歩いているルーワンよりも、マスターの呟く声のほう
に胸がキュンとなるように思った。たぶん何かの気の迷いなのだろう。あたしは目的の人と出
逢ったのに、まだマスターの故障が直っていないことがつらいんだ。だから胸が痛むんだ。マ
リカは自分で自分を分析していた。
「おい」と後ろから銀色髭が声をかける。「ドラゴンをみつけようってのに、そんなにズンズ
ン歩いてっていいのかよ。足跡や抜け毛の一本でも手掛かりになるんだぜ。それを全部踏み荒
らしちまうつもりか?」
「不服ならついて来なくたっていいんだよ」とピートは虚勢を張る。「こっそりドラゴンに近
づいて、後ろから不意を付く、みたいな姑息な真似はぼくはしないんだ。ドラゴン相手に卑怯
な真似は絶対にしないよ。堂々と真っ向勝負で行くんだ」
 データより心意気、と言っているロボットに銀色髭は驚く。何にしてもチンケな機械に姑息
だの卑怯だのと自分の手法を罵られて、彼は非常に気分を害した。チャンスがあれば崖から蹴
落としてやると、彼は心に誓った。
 しばらく行くと、マスターの腕の中からケンプがピョンと飛び降りた。何かを発見したらし
い。ケンプはトコトコ走ると、地面に顔を近付けて匂いを嗅ぎ、クーッと鳴いた。
 近寄ってみると、ドラゴンらしき足跡が地面に残っている。けれどケンプはすぐに興味をな
くしてまたぴょんとマスターの腕の中に飛び戻ってきた。興味をそそられたのはパピロとドラ
ゴン・スレイヤーたちだった。彼らは足跡へと走り寄り「ドラゴンだ」「大きいぞ」「西のほ
うへ向かってる」「どうやらオスのようだ」とそれぞれにドラゴンのプロらしいことを口にし
ている。
 マリカは足跡を追って走り出すパピロやスレイヤーたちを見送って、ピートに顔を向ける。
「あたしたちも走りましょう。あの男たちに先を越されたら、ドラゴン、殺されちゃうわ」
「確かに」とルーワンもうなずく。「あいつらは生け捕りにする気はなさそうだ」
「走ってどうするのさ」とピート。「後ろから追いかけて不意打ちにするの? 冗談じゃない
よ。ぼくは真っ向勝負するんだ。山の頂きを目指して、そこでドラゴンが飛んでくるのを待つ
よ。それがドラゴンとの正しい付き合い方なんだ。敬意を持って接しなきゃ、ドラゴンは決し
て心を開いてくれないんだ」
 また童話から得た知識だった。しかし仕留めるのではなく、ドラゴンと話をしたいのであれ
ば、足跡を追いかける、なんて真似をしても無駄だと思った。
〈マスターが正しいみたいだよ〉
 フィンフィンが言う。「え?」とマリカが訊き返す。
〈ドラゴンらしき心の残像が残ってる。それは山頂を目指してるよ〉
「よし、ぼくらはこっちへ進もう」
 マスターは山頂へと続く道を指さした。今回に限り、マリカはマスターに指導権を譲ってい
た。どうやらマスターはマリカよりもドラゴンの知識が豊富らしい。それにもう自分の旅は終
わったんだ、という想いがどこかにあるせいだろう、ここから先はマスターの旅なんだ、とマ
リカは心のどこかで想っているようだ。
 マリカはルーワンを見る。ルーワンはしっかりとワーターの手綱を掴んでいた。もう君を離
さないと態度で言っているような感じ。マリカはそんなルーワンに胸が熱くなった。
〈こっち!〉
 フィンフィンが言って、先頭を切る。マスターが後に続く。それをマリカが追った。
 しばらくドラゴンらしきものの心の残像を追い掛けてから、フィンフィンは「おかしいなぁ
」と首を傾げる。
〈何が?〉とピート。
〈うん。何かドラゴンじゃないみたいなんだ。心の波長が違うんだよ」
〉〈波長?〉
〈うん。きっとこの島にいるのはドラゴンじゃないよ。ケンプだってそれに気づいたから君の
腕の中で居眠りなんかしてるんじゃないの?〉
 確かにケンプは居眠りをしていた。足跡を見てその匂いを嗅いで、ケンプはここには親も仲
間もいないとわかったのだろう。
〈じゃあ、ここにいるのは?〉
 ピートが問いかけるのと、先頭にいたフィンフィンが真下で跳ね飛んだ岩にぶつかって、宙
に跳ね飛ばされるのとが同時だった。
「うわっ」
 と跳ね飛ぶ岩から咄嗟に頭を庇いながらピートも地面に伏せる。ワーターは驚いて前足を振
り上げながら横転し、背中から振り落とされたマリカはルーワンに助けられながらもふたり同
時に斜面を転がった。転がりながらマリカは大量の岩つぶてと一緒に巨大な影が大空へ舞い上
がるのを見た。

(つづく)




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